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広島大学 教授 市川貴之様

効率的なエネルギー利用に欠かせない二次電池

化石燃料に頼らない社会を築くために欠かせない、エネルギー材料の研究を行っています。主軸は「二次電池」と「水素エネルギー」。エネルギーを効率よく、安全に、使いやすく、制御することを目的として、材料研究を進めています。
まず二次電池というのは、充電して何度も繰り返し使える電池のこと。化学反応を利用した蓄電池です。太陽光や風力を利用した発電は波があり、安定的に使えないのが欠点ですが、蓄電して利用すれば電力が安定し、運搬も簡単です。どのようなエネルギーを利用したとしても、エネルギーをより効率よく貯蔵するための研究は欠かせないのです。
例えば現在の電気自動車は、100km走るために100kgの電池が必要ですが、ガソリンなら10リットルもあれば走りますね。重さは10kgにもなりません。つまり重さの点では、まだまだガソリンが有利です。高効率にエネルギーを貯めて電池を軽くできると、電気自動車も使いやすくなります。

自然界に豊富な水素をエネルギーとして活用

水素活用の代表的なものが、水素燃料電池。化学反応による発電装置で、現在、最も期待されているエネルギーデバイスです。
先ほどの自動車の例でいくと、水素5kgで500km走ります。ただし、水素を700気圧で圧縮しないといけません。そこで、より便利な昇圧方法や、あるいは昇圧せずに使う方法など、水素の特性を生かした研究をしています。
最も力を入れているのが、水素の貯蔵材料。水素を別の物質に吸収させ、必要なときに取り出せるようにすれば、固体や液体として扱えるので便利です。マグネシウムやチタンに水素を結合させれば、水素は簡単には漏れません。これらは水素吸蔵合金といいます。
水素やリチウムがエネルギー貯蔵に使われるのは、物質の中で動くことができるからです。原子では、水素とリチウムの2つだけといってもいいでしょう。そういう個性に魅力を感じています。

水素吸蔵材料としてのアンモニアにも注目

金属以外の貯蔵材料として注目しているのがアンモニアです。窒素と結合させてアンモニアにすれば、高密度で貯蔵できるのです。
気体は、高圧にすると液体になる物質が多いのですが、水素は圧力をかけても液化しません。取り扱いが面倒ですよね。一方アンモニアは、プロパンガスと似た条件で液化する性質があります。液体にすれば高密度になるので、アンモニアを水素吸蔵材料として活用する研究も進めています。
その性質を逆に利用して、牛舎や鶏舎から出る動物の排泄物から水素を取り出す研究をしている学生もいます。実用化されるとおもしろいと思いませんか。空気中にアンモニアが少しでもあると匂うので、空気の中からアンモニアを吸い取る研究をする学生もいますよ。

広い視野でエネルギー関連素材に携わる

現在、私は工学部所属ですが、学位を取ったのは総合科学(理学系)です。総合科学部出身のため、既存の学術体系に囚われない思想が根っこにある上、卒業後もいろいろな場所で、いろいろな研究者と関わるうちに、研究分野をどんどん広げていきました。
またエネルギー活用というのは、世界情勢や国の政策と大きな関わりがありますから、世の動きを知らなければ、エネルギーの研究を俯瞰で見られません。ですから、研究室としてはテーマを絞り込まず、学生にも興味あることを自由に研究してもらっています。おかげで研究室としては「電池や水素に関わる素材は全てわかりますよ」という状態になりました。珍しいやり方だと思いますが、私の経歴が役に立っていると感じています。

水素エネルギー社会実現に向けて,世界をリードしたい

日本は、水素基本戦略として、水素エネルギー社会への転換を政策として発表しています。つまり国家を挙げたプロジェクトです。いずれ水素のパイプラインなどもできるかもしれない。そうなると社会は大きく変わります。将来訪れるであろう,この水素エネルギー社会を支える再生可能エネルギー社会がとても楽しみです。そして、水素エネルギーの分野で日本が世界をリードできるような研究を、我われも進めたいと思っています。

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