ラボナビ

佐賀大学 高椋利幸様

 

国内の多くの国立大学が理学部と工学部を分けて設置している中、理学系と工学系の融合をテーマに国内の国立大学の中では珍しく、理工学部を設置している佐賀大学。今回は、その理工学部内でも、平成9年に、理学系の化学科と工学系の工業化学科が統合して設置された「機能物質化学科」を訪問。理学系の研究を行っているという高椋利幸教授の研究室を訪ねました。 

モノづくりのベースを支える。

「機能物質化学科」は、化学を通してものづくりをする人材を育てる学科で、大きく分けると「理学系」と「工学系」、2つの流れの研究室が存在しています。その違いは何か。世界には多くの工業製品がありますが、それらを構成するものがすべてゼロから作られている状況は少ない。それまで世の中に積み重ねられてきた様々な技術を集めて生まれることが多いんです。つまり、「あるモノを生み出すまでに、様々な引き出しを作っておく」のが理学系の仕事で、「引き出しからピックアップしてモノを生み出す」のが工学系の仕事と言えば理解しやすいでしょうか。そして私の研究室は、その“引き出し”を増やす理学系の研究を行っており、中でも溶液・液体に関する分野を専門としています。溶液・液体の中で身近なものと言えば、水があります。私たちの体は約70%が水でできており、その中で様々な酵素反応が起きていますが、それがどのように起きているのか、詳しい解明がなされていないことも多いんです。同様に、化学反応の多くが何らかの溶液中で起きており、なぜそれが起こるのか解明されていないものが多い。私たちはそれを研究・解明し、将来、何らかのモノづくりに役立つための“引き出し”を作り続けているのです。

私が教授になった理由。

もともと小さい頃から算数や理科が好きで、中学生の頃は、電気や電子機器などに興味を持ち、自分で回路を組んで遊ぶこともありました。その分野に進む可能性もあったのかもしれませんが、その後、化学で化合物が結合して新しい物質ができることなどについて学ぶようになると、「電気みたいに“乾いたもの”よりも化学のように“乾いていないもの”の方が面白い!」と思うようになったんですね。そして大学では、溶液の中で起こる金属イオンと、それにくっついてくる配位子の反応(錯形成反応)について研究しました。さらに、それを極めるためには溶液のことがわかってないと、と思って、大学院では、溶液自体を見る手法を研究している研究室へ。そこで、物理の手法を使った錯形成平衡について学び、今に至っているんです。常に、目の前に現れる面白そうなものを追いかけてきた結果、教授になったというわけです(笑)。

手間がかかるからこそ、魅力的。

突然ですが、固体・液体・気体のうち、一番研究しづらいものはどれだと思いますか? 一番研究しやすいものは、固体ですね。固体には結晶の配置に方向性がある。つまり、たとえばX線で観測した場合、連立方程式をたくさん立てられるので、物質を捉えやすいのです。次に、一見捉えどころがないように感じる気体はどうでしょう。実は気体の中では分子がそれぞれ関係性なく存在しているため、そのうち1分子だけに電子線などを当てて様子見れば良いんですね。そして液体、これは、分子と分子の間に力や相互作用が働いているにも関わらず、絶えず動き回っている状態なので、X線を当てても返ってくる信号が弱く、調べるまでに非常に時間と手間がかかります。ある意味、やっかいな存在なのですが、研究者としては、そこに魅力を感じるのです(笑)。実験の手法としては、学内では赤外線やNMR(核磁気共鳴)を使用しながら、また学外の専門施設ではシンクロトロン(円形加速器)、中性子などを使用して、溶液中の分子の状態・作用を探っています。この、「溶液中の分子を見る」という研究は、1960年代から発展し、現在は「光」が大きなキーワードとなっていますが、今後も新しい方法がどんどん出てくるでしょう。そこを切り開いていくのも我々の仕事です。現在、私は年に一度はヨーロッパへ出向き、溶液・液体の国際会議で研究発表を行っていますが、お互いが成果を発表することで、また新しい実験のヒントを得ることができますし、非常に刺激になります。国内での学会には学生にも積極的に参加してもらっていますが、海外の学会にもぜひチャレンジして欲しいと思っています。

大学で学ぶということ。

私の研究室では、学生たちは日々、モノを混ぜ、溶かし、サンプルを作り、密度を測り、さらに濃度、比率、温度を変えながら、何が起こっているのかを観察し、変化に目を凝らしています。彼らに期待しているのは、たとえ私から依頼された実験中であっても、「おいしいそう」と思うところを見つけたら積極的につまみ食いしてみて欲しいということ。そこで「おいしい!」と感じてもらえたら最高です。きっと、研究に対する姿勢や意識が変わるのではないでしょうか。とはいえ、大学の4年間というのは短いもの。ここで何らかの成果を出せたなら、それはもちろん素晴らしいことですが、たとえ成果が出せなくても、大学には面白いものを見つける目を養ったり、社会に出てからの仕事のやり方、納期意識などを養う機会がたくさんあります。学生のみなさんには、ぜひ、そのことを意識して過ごして欲しいと思っています。

趣味にもやっぱり「観察」

趣味は山に登ることです。街中に出てショッピングなどをするよりも、自然の中に身を置くことが好きですね。ただ、山登りと言っても、アルプスや富士山のような高山に挑戦したり、毎週どこかの山に登るわけではなく、学生時代から年に一度、英彦山(福岡県田川郡添田町・大分県中津市山国町に跨がる標高1,199mの山)に必ず登る、というのが私のライフワーク。実は、毎年、自分の体力がどれだけ落ちているかを観察するための登山でもあるのですが(笑)。ここ最近、7階にある研究室まで階段を使うように心がけた結果、また体力的にV字曲線を描いているように思います。次回の山登りも非常に楽しみです。

the lab next door

工学系研究科 循環物質化学専攻助教
梅木辰也

私も高椋先生と同様に液体を扱っていますが、高椋先生がサイエンスを重要視して進められているのに対し、私はエンジニアリングを頭に入れた研究を進めています。扱っている溶液は主に2つで、ひとつは電池用の電解液、もうひとつが二酸化炭素の吸収液です。特に、二酸化炭素の吸収液については、近年、大気中への二酸化炭素の排出が規制されていることもあり、多くの企業が課題とするところ。新しい吸収液の研究を進めることで、その分野に貢献できたらと思っています。佐賀大学理工学部では、日頃から、研究室同士の意見交換が活発。非常に有意義な学生時代が過ごせる場所だと思いますよ。

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