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九州大学 岡本正宏様

情報科学、工学、生命科学を融合させながら総合生命科学を担う人材の育成を目指し、平成15年に創設された九州大学のシステム生命科学学府。今回は同学府の府長であり、生命情報システム学研究分野の教授として、生物の優れた機能を医療や工学に応用する研究を進める岡本正宏教授を訪ねました。

生命科学とは何か。

九州大学大学院システム生命科学府は、生物学や情報科学、工学など、複数の分野に及ぶ生命科学を研究するところです。生命科学とはどんな学問か。例えば私たちが親から受け継ぐDNAは、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)の4種類の塩基が2本の線の上に並び、ペアを成していくことで作られています。その数はおよそ30億個、文字にすると朝刊約10年分にも上ります。その配列をまるで暗号解読するように解き明かすことで、人の体を構成するタンパク質や、タンパク質を構成するアミノ酸を解き明かすことができます。しかし30億個の配列をひとつひとつ手作業で計算することは非常に難しい。つまり、そこにはコンピューターが必要であり、生物を知るには情報科学が欠かせないようになる。このように、様々な学問の融合によって、切り開かれている生物学が生命科学なのです。

広がりゆく「生物」の研究分野を追いかけて。

私は九州大学の農学部で、化学を応用する農業・農芸化学について学びました。例えば、工学にはスイッチのオン・オフがありますが、それが生物の化学反応の中にも見られるのではないか、というようなことです。そこを追求するためには当然、生物の他に工学の知識も必要となる。そこで、自ら進んで理学部や工学部の授業も履修していたんです。そして興味は生物から様々な回路を見出し、それを社会的なものに応用できないかということに発展していきました。生物という学問からエキスをもらって、工学に生かす。鳥という生物を見て、空を飛ぶもの、飛行機を作るようなイメージですね。そもそも生物には、環境にうまく適応する仕組みや、一定に保とうという優秀な仕組みがある。ならばそれを交通や通信の渋滞に取り入れてみようと。渋滞を解消するために広い道路や回線をドンドン造るのではなく、状況や環境によって信号を使ったり、カーナビでコントロールして制御をかけて緩和する考え方を取り入れる、というようなことです。今、私が農学部という立場でNTTと共同研究することがあるのはこのためですね。また大腸菌にはインスリンを作る能力はありませんが、遺伝子を組み入れ、本来生物が持っていない機能を孵化させることで、大腸菌がインスリンを生めるようなシステムを作ることができる。これは合成生物学というものですが、これも生物のシステムを応用したものです。私たちはさまざまな分野に関わる研究をしていますが、非常に広がりがあるでしょう。生物を対象に、いろんな分野が広がっていくんです。

自分だけの絶品サンドイッチを作る。

日本人は定食が好きですね。一方、サンドイッチ店で、パンを選び、具を選び、ソースを選ぶカスタマイズを苦手だと感じる人が多いようです。しかしグローバル化が進む社会では、その能力が求められます。当学府では、生命倫理学のような科目、ベースとなる最低限の具材は全員に選んでもらいますが、それに加えていく肉や野菜、つまり工学・農学・医学・理学といった科目はそれぞれが好きなだけ足しながら、絶品のオリジナルサンドを作っていく。その選択の幅を広げるために、情報工学系の人は生物を学び、生物系の人は情報工学を学ぶなど、学部で学んだ学問と違うものをたすき掛けで学ぶことで、新しいアイデアが得られるのです。1981年にノーベル化学賞を受賞された故・福井謙一博士は、「“自然”は学問の垣根というものを知らない」という言葉を遺されましたが、それはつまり、数学や物理などの区分けができる前から自然はあり、自然を理解するためには、学問の分野を超えた学びが必要だということです。

自分で運転できる人材へ。

スコップを1つ与えられて1mの穴を掘るように言われたとします。効率を優先し、穴は細くてもいいからとにかく深く、と考えるとまず難しいでしょう。学びを進める際にも同様に、いろんなことに興味を持ち、知識を広げてこそ、深い穴は掘れるものなのです。日本では、大学受験の18歳から、早ければ高校1年生の16歳から自分が文系であるか、理系であるかを決めなければなりません。しかし歴史も好きだが数学も好き。国語も好きだが理科も好き、それでいいのではないかと思うのです。大学でも、学部でガッチリと専門性だけを叩き込まれると頭が硬くなってしまう。私はもっと、土壌をたがやす保湿的な学びが必要なのではないかと思っています。文系はちょっと違いますが、理系の修士課程は仮免状態。決められた道路は走れるが、自由に路上を走り回ることはできない人が多いように思います。しかし今、世の中の企業は“自分で運転できる人”を望む傾向にあり、新しい学びのスタイルが必要になっているのです。

世界中の人に発信できる研究を。

さらに、これからはスーパーグローバルユニバーシティの時代です。日本の大学はすでに多くの留学生を受け入れており、グローバル化が進んでいるように見えますが、日本人と留学生の授業が別に行われている場合も多いんです。理由は、英語能力に差があるから。日本人はリーディングとライティングには強いのですが、リスニングとスピーキングに弱い。しかしそれでは、一生懸命学んできたことが、海外に向けて発信できません。そこで最近は、外国人と日本人で学ぶ場をシェアしようという動きが強まっています。また最近は、企業側にも変化が現れており、かつて学際的な学生を採ることに抵抗を感じていた(持て余していた)ところも、積極的に採用を進めるようになりました。海外で就職する学生や、ドクターになる人も増えています。学際的なこの学府からも、今後どんどん世界に通用する人材に羽ばたいて欲しいと思います。

最後に、学生の方々に伝えたいこと。それは、自分のやっていることを、親にもちゃんと説明しよう、ということです。親は、見返りに関係なく、年間数十万円もの投資をしてくれる唯一の存在。成果を伝えることは重要です。また、親に説明をすることができれば、自分のやっていることをきっと、幅広い方々に伝えることができる。それは非常に大切なことなんです。

学生と目線を合わせながら。

研究室は非常にアットホームですよ。食事会などもよく開催しますし、賑やかな場は大好きです。私が還暦を迎えた際には学生たちが祝いの場を設けてくれました。パソコンを使って私の似顔絵を描いてくれる者もいます(笑)。現在、学部の1年生から学府の5年生まで、9歳も差のある学生たちと触れ合っていますが、今後もそれぞれに目線を合わせながら伝えるべきことは伝え、彼らの成長を見届けたいと思っています。

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