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兵庫県立大学 永井成美先生

「明日の自分は今日の食事で作られている」この言葉が示すように、密接な関わりがある食と健康。
栄養学を学びながら自らも健康になっていくという永井研究室は女子たちの熱い注目を集めている。
その魅力を探ってみた。

健康や暮らしに影響を与える「食」。食や栄養に関する多彩な実験・学習を行い「食と健康に関するプロフェッショナル」を育てる兵庫県立大学環境人間学部食環境栄養課程。
管理栄養士や栄養教諭をめざす学生たちと行っている栄養教育(食育)研究と、食事の種類や栄養素、食べ方、時間栄養学も含め、それらが私たちの健康や満足感にどのように影響するのかを探求する栄養生理学の研究を行っている永井研究室。生理学と栄養教育の2種類の研究を連動させているのは全国的にも珍しい。どんな活動をしているのか永井先生に伺ってみた。

永井先生の研究内容を教えてください

研究室では時代を反映した新しい食の課題に注目し、2種類の研究をしています。一つは、フィールドで行う「食育研究」。小学生までの児童や支援学校の児童を対象とした食育プログラムや教材を開発し、実際に教室などを行って効果を評価する研究です。例えば、耳が聞こえにくい児童には、発語に必要な筋肉を鍛えるため、噛むことを重視した教材を作成しました。

最近では、途上国での食育活動もしています。昨年はフィリピン、今年はモンゴルで活動しています。今、アジアでは教育改革がとても進んでいます。教育年数が伸ばされ、フィリピンでは幼稚園から高校までが義務教育なのですが、健康や食育は後回しにされがちです。海外での食育は、何かを教えるという目的を持って現地に行くのではなく、現地の教師・関係者と研究室の学生たちが一緒に作りあげていくプロセスが重要です。フィリピンは、日本より暖かく、野菜も豊富なのに摂取量は日本人の10分の1ということがわかりました。ですので、テーマの1つは野菜摂取にして、いろいろな方と協力しながら英語や現地語での指導案と教材を創り、児童の記憶に残る授業を行いました。作成した教材は、後々使っていただけるように小学校に寄付しました。

国内海外に関わらず、食育は最初からテーマを決めると画一的な食育になってしまいますから、ニーズを探して、解決することを研究テーマにしています。主に4年生までの学生と取り組み、食育の授業を実践し、研究、論文作成、栄養教諭や管理栄養士として勤めた時に役立つように指導しています。

もう一つの研究も教えてください

2つ目の研究は、主に大学院生と取り組む栄養生理学です。食品の種類や含まれる栄養素、食べ方、食事に付随する感覚や情報などが私たちの健康や満足感にどのように影響するのかを研究します。例えば、EMS(経皮的電気刺激装置)を使って筋肉が収縮する際に出る物質が、どのように食欲抑制につながるのかを研究しています。お腹が減った時にウォーキングしたり、自転車をこいだりすると一時的に食欲を感じにくくなり、間食や食べ過ぎを防ぐことができるのです。でも忙しかったり、体を動かしにくい人は、運動がなかなかできません。そこでEMSで大腿四頭筋を収縮させて、食欲やそれに関連する生体指標がどれぐらい変化するのかを研究しています。効果が出れば、寝たきり、車いすの人の肥満対策になるのではないかと思っています。
ほかには、青いスープを飲むと、その後の体温がどんな風に変化するのかという、色と食欲の関係など、学生が興味を抱いたことは何でもさせています。
 生理学で研究したことを、栄養教育学でアウトプットできるのも私たちの研究室の一番の特徴。2つを連動しているのが面白いところですね。

今、注目されている研究はありますか?

実は、「いつ食べたらいいか」という時間栄養学に興味があります。「早寝、早起き、朝ごはん」ってよくいいますよね。でも、これってヒトでの根拠(注:介入研究による)はまだまだ少ないのです。なぜ早く起きたらいいのか、朝ごはんを食べなきゃいけないのか?ということを、附属高校の寮生に協力してもらって研究したことがあります。夜、スマホを見ている人は朝の体調がどのように変化するのか、朝型や夜型の体質の人がどうしたら健康に過ごせるのかも調べています。シフトワーカーで朝ごはんを食べられない人など、ライフスタイルを配慮してその人が健康になれる方法を探求していきたいです。
また、時差ボケを治す食事の仕方やよく眠るための栄養学、企業と一緒に食べ順にこだわったお弁当の開発など、いろいろな時間でとらえる食事の提案もしていきたいですね。
そのほかには、ダイエットや肥満、肌、美と健康に関する研究も行っています。例えば、デザートバイキングを食べに行っても太る人と太らない人がいる理由を体質(遺伝)と代謝の面から調べたり、朝食を抜くとエネルギー代謝がどのように変化するのかを実験したり、同じ食べ物をよく噛んで食べる場合とミキサーで飲み込む食事と消費熱量はどれぐらい違うのかを実験するなど、実生活で活かせる研究もしてきています。いくつかの研究成果は過去にTVで取り上げていただいたこともあります。

普段の研究室の雰囲気や学生を指導する上で大切にしていることも教えてください。

研究室には、大学3年生から大学院博士後期課程3年生まで、13名の学生・院生が所属しています。今は全員女子学生で、女子大のような雰囲気です。この学生たちが将来リーダーとして後輩を教育したり、親となり子を育てる時のために、私が厳しめに指導しているのは、メールの書き方などのマナー、掃除、そして時間です。それと、管理栄養士としていずれ人に食事の提案をする立場になるわけですから、まず自分自身が健康になってもらいたいし、美しくなってもらいたい。また、みんな食べるのが大好き。研究室で食事をつくることもありますし、1年の始まりは、弁当を作って姫路城でのお花見で迎えるのが恒例になってます。

高校生に伝えたいことはありますか?

「明日の自分は今日の食事で作られている」と言います。自分が口にするものがどのように健康面で影響があるのか、どうすれば効率的に健康によい食事ができるのかを研究するのが栄養学です。管理栄養士や栄養学の先生になりたい人だけでなく、ダイエットや食事と肌の関係など、普段私たちが気になることを学問として研究し、エビデンスを社会へ提供します。
例えば、24時間営業の外食チェーンで、店長さんの肥満が問題になっているというご相談を受けたことがあります。そのようなシフトワーカーの方に適した食生活を体質(遺伝)と環境の両面から探求したり、運動に制限がある方の肥満の予防など、これからの社会に役立つことや困っている人のために解決に導く方法を他の大学や研究機関、企業の方などと一緒に研究していきたいと考えています。

Q. 研究室を選んだ理由は?

A. 人を対象とする研究に興味を持ったので、永井研究室を希望しました。研究室としては、国際栄養や企業との共同研究など、さまざまな取り組みを行っています。そのなかで、私達は、EMS(経皮的電気刺激装置)を用いて、他動的筋収縮運動が食欲・食欲関連ホルモン動態に及ぼす影響について研究しています。

Q. 高校生にメッセージをお願いします。

A. 私は食べること、料理することが大好きです。食を通して健康を考えたい人におすすめです。

Q. 研究室の雰囲気は?

A. 明るく楽しい研究室です。マナーや礼儀に関しては厳しい指導があり、勉強以外の面でも学ぶことが多いです。

食環境栄養課程 4年生
山脇 菜美さん

環境人間学研究科 修士1年生
末継 夏帆さん

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