アクセス件数:

明治大学 専任教授 三木 一郎 様

1978年、明治大学工学部専任助手として研究者の道に。1990年より明治大学理工学部教授。約40年に渡り、モータ技術の研究に取り組む。所属学会は電気学会、IEEE (米国電気電子学会)など。ほか、国内学会および国際会議実行委員会委員長・論文委員会委員、技術委員会委員長、調査専門委員会委員などを歴任。

先生が研究しているモータについて、概要を教えてください。

モータは、あらゆる産業で欠かすことができないものです。工場の機械や電車などを動かす動力源、掃除機や洗濯機といった家電製品など、いたるところで使われています。 モータにもさまざまな種類がありますが、現在、私が研究しているのは3種類のモータです。1つめは、三相誘導モータ。電源として三相交流を使うモータで、工場用など産業用途で使われています。2つめは永久磁石同期モータ(PMSM:PMモータ)。回転子内部に永久磁石を使用しているモータで、高度な制御技術によってより高効率な回転が可能になるため、省エネ性能が求められる家電や自動車など、広く使われています。3つめはスイッチトリラクタンスモータ(SRモータ)です。回転子が鉄心のみで構成され、永久磁石を使用していないため、構造が簡単です。安価で頑丈、大量生産にも向きます。人気のある種類ではありませんが、そんな利点があることからモータ業界から消えることはないと思います。 これら3種類のモータについて、構造の検討、特性の解析や制御に関する研究に取り組んでいます。

研究で目指しているのは、どのようなモータでしょうか?

近年、モータ技術の研究・開発では、軽量化・高効率化が潮流になっています。その背景には、地球温暖化の進行により、環境に配慮したモータが求められていることがあります。ある試算によると、日本で1年間に消費する総電力量の50%以上がモータに使われているという結果が出ており、全モータの効率が1%よくなると原子力発電所1基分が不要になるともいわれています。モータの軽量化・高効率化の研究は地球環境の保全のほか、省エネルギーの実現にもつながるのです。

これまでの研究事例を教えてください。

PMモータの一種に、回転子の内部に永久磁石を埋め込んでいる「埋込磁石型同期モータ(IPMSM:IPMモータ)」があります。高速回転が可能、磁石の形状や配置などでトルク、効率、最高回転数などを柔軟に設計できるという特長があり、ハイブリッド自動車や電気自動車には欠かせないモータです。 IPMモータの磁石の原材料は、ネオジムやジスプロシウムといったレアアース(希土類)ですが、希少なうえ、中国など海外でしか産出されないため、日本は輸入に頼っています。しかし、10年ほど前に入手が困難になり、価格が高騰しました。そこで私の研究室では、希土類の使用量を減らし、安価で高性能なIPMモータの開発に力を入れていた時期があります。その一環で行ったのが、希土類磁石の代わりに安定供給が可能なフェライト磁石を使うという研究です。初期に検討した構造のモータではトルクリプル率が高かったのですが、回転子形状や構造などの解析と検討を重ね、高トルクで効率も向上させることに成功しました。 希土類を使わないモータの研究として、SRモータの電気自動車への応用に取り組んだこともあります。企業の技術者の方から協力いただき、SRモータ搭載の電気自動車を製作して走行させ、実用性を評価する研究です。SRモータには振動や騒音が大きいという欠点があるため、構造的な振動・騒音対策を研究し、騒音の低減に関しては一定の成果が得られました。 今は電気自動車の製作・実用化の研究は行っていませんが、SRモータについては、センサレス制御を中心に研究を続けています。

現在、最も力を注いでいる研究について教えてください。

IPMモータの高速化・高効率化の研究に力を注いでいます。この研究は電気自動車の進化や、工場で使うコンプレッサーなどの性能向上に貢献できると思います。まずは、海外の学会での発表を予定しているので、しっかりと成果を出したいと考えています。

ワークステーションの導入により、研究にどんなメリットがありましたか?

モータの新技術の開発には、理論を構築して設計し、シミュレーションを重ねる必要があります。電磁解析ソフトの「JMAG」を搭載したコンピュータを使い、回転数、磁束の流れや応力など、さまざまなシミュレーションを行うのですが、以前はその計算に時間がかかっていました。 ワークステーション導入後は、計算の時間が従来の半分以下に短縮されました。膨大なデータを計算するスピードが速くなり、結果がすぐにグラフなどで可視化できるようになったことも大きいです。「次はこういう視点でやってみたい」と、研究室の学生たちの発想が豊かになっているのを感じ、うれしく思っています。

 

キーワードKeywords

PAGE TOP