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広島大学  准教授 日下部 達哉 様

1973年福岡県福岡市で生まれる。1994年九州産業大学商学部卒業後、学習塾に勤める。福岡教育大学大学院教育学研究科を修了後、学校の教員に。九州大学大学院人間環境学府発達・社会システム専攻博士課程で博士号を修得。京都大学大学院教育学研究科で日本学術振興会の特別研究員、早稲田大学イスラム地域研究機構研究員を経て、2010年広島大学教育開発国際協力研究センター副センター長に就任。

先生の研究内容について教えてください。

 研究領域は比較研究学。インドやバングラデシュといった南アジアの教育研究を行っています。私がこの研究に興味を持ったのは、大学時代バングラデシュの留学生の家に遊びに行ったのがキッカケとなりました。その友達の家は、かなり僻地の農村にあったんです。きちんとした教育を受けている家庭はあまりないのではと考えていたのですが、意外なことにほとんどの子どもが学校に通っていたんです。当時の研究者は“バングラデシュではなぜ教育が拡大しないのか?”という切り口で研究をしていました。農村の実態を知るにつれて “なぜバングラデシュの人たちは下位階層の方でも教育を受けさせるのか”という疑問がわきあがり、農村の家を一軒一軒訪ねあるいてデータを集めていきました。
 ゴールドマン・サックス社が提唱したネクスト11をご存じですか?経済大国への成長が期待される11か国のことで、ベトナム、韓国、イラン、インドネシア、トルコなどと
並んでバングラデシュもその中に入っているんです。経済が発展していくと農業に従事するより、定期的に賃金を得られる仕事に就きたいと思うようになる。だからこそ、我が子に教育を受けさせているというのが、聞き込みで分かってきました。

先生は現地に行って直接話を聞くことをとても大切にされていますよね。

 “研究は頭でなく、心で行う。データは手ではなく、足で集める”というのをモットーにしています。訪問しても最初はみんな無難な答えがかえってくる。何度も何度も訪ねて、友達になってやっと本音の部分が引き出せるんですね。それはとても根気がいるし、体力も使います。また、100年後の人がみても面白いと感じてもらえる研究にすることも心がけています。
 最初バングラデシュの農村に行ったのが1999年。その10年後の2009年に再度訪問して、10年前に出会った子どもたちがどう成長しているのか調査しました。そして、昨年2019年から20年後の農村の姿の研究を再開しました。20年後というと、当時赤ちゃんだった子どもが成人して、その頃の教育の結果が出ているんですね。結論からいうと54名の子どもたちのうち、会社員になって成功した子どもが14名でした。そのうち女性は一人で、教育を受けたからといって、希望する仕事に全員が就いている状況にはなっていませんでした。やはり女性のほとんどが学校を中退して15歳~16歳で結婚するという風習が根強く残っているんですね。今後はいかに子どもたちに質のよい教育を与えていくのかが問われているのではと思います。

イスラムの学校、マドラサの研究もされているのですよね?

 私のもう一つの研究の柱がイスラムの学校マドラサです。マドラサは政府から公式に認められていない学校なのですが、なぜ子どもをマドラサに行かせるのか不思議に思ったのが研究をスタートさせたキッカケになりました。マドラサの人たちはどういう宣伝をして、子ども達を集めているのか、マドラサ側の戦略も研究対象にしています。
 イスラムでは子どもが4人いれば、一人はマドラサに入れるという風潮があります。子どもをマドラサに入れると、その親は宗教的義務を果たしたことになって、天国に行けるということが信じられているんですね。またマドラサも学位を出すので、卒業後、宗教関連の仕事に就く生徒も多い。例えばサウジアラビアの大巡礼(ハッジ)に行くのに、一般の方は旅行会社を使います。スタッフはアラビア語、英語が使えないといけないだけでなく、イスラムの宗教知識がいるので、マドラサ出身の生徒が重宝されます。また、ラマダンという断食月には、マドラサ出身の生徒でなければできないお祈りもあります。
 近年、マドラサも子ども達を集めるために、教育内容を変革しようとしています。同性愛などのセクシャリティな部分もそうです。以前では考えられなかった価値観が認められるようになるなど、様々な文化と共生しようとしています。

今後チャレンジしてみたい研究はありますか?

 教育も改革が進んできていて、学校が提供する質が問われてきています。教師のスキルも上げないといけないし、教育コンテンツの質もあげないといけない。子どもたちが学びやすい環境がどういったものか、改善点を見出すことが求められています。今後はそこについて世界的に比較をしていくような研究をしていきたいですね。

 

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